オグリキャップをもう一度

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Tiznowの時代

共同通信杯はダノンベルーガが快勝しました。
キャリア2戦目でありながらスーッと抜け出す様は、能力の高さを感じさせるもの。
右トモに不安があり、右回りが微妙なことから、皐月賞はわかりませんが、東京優駿の最有力候補に躍り出たと言っても過言ではありません。

ダノンベルーガの母方に入っているのが、Tiznowの血。
Tiznowの血を持った馬は、他にもコマンドライン、リアドなど今年のクラシック戦線で活躍しそうな馬が揃っています。
また、一昨年の三冠馬コントレイルにもTiznowの血が入っております。
北米に目を向けてみても、血統配合理論で購入され、BCクラシックなどG1・5勝をあげたKnicks Goは、Tiznowそのものではありませんが、Tiznowの全姉の血を持っています。

Tiznow自身はBCクラシックを連覇するなどした北米の名馬。
しかし、両親はともに大した競走成績を残していない馬でした。
そんな両親からTiznowだけでなく、BCクラシック2着のBudroyaleや種牡馬Paynterの母になるTizso、プリークネスSを勝ったOxbowの母Tizamazingが生まれるのだから、この血統には走る要素があるのでしょう。
その一つがTiznowの父の母であるティズリーにあるような気がします。
ティズリー自身はフランスで6戦4勝2着2回の成績で引退。Tiznowなどの父となるCee’s Tizzyを生んだ後、日本に行って、オープン馬となるオトメゴコロやオークス4着馬オトメノイノリなどの母となります。
そのオトメゴコロの牝系から生まれたのがキタサンブラック。日本の高速馬場でも大丈夫なスピードと、アメリカ競馬やキタサンブラック自身が示したタフさを兼ね備えた牝系なのだと思います。
Tiznow自身もそんなティズリーの血を受け継いだからなのでしょう、直系はともかく配合のどこかに潜むことでタフなスピードを示してくれるのだと思います。

ロマンあふれる良血重戦車 ~メジロアルダン~

昨日は「メジロライアン」と見せかけて「ライアン」の話を書きましたが、今日はメジロの名馬、メジロアルダンについて書きます。
まあ、昨日ウマ娘関連で話題になったみたいなので、便乗する形ですが。

 

ウマ娘で強いカードになったらしいメジロアルダン(ゲームのウマ娘にあまり詳しくないので、なんとなく強いカードになったことしかわからないのです)。
ただ、一部で「G1を勝っていないのに、なんでそんないいカードにするんだ」という声があったようです。

これに対しての自分の意見は、次のとおりです。
メジロアルダンはG1を勝てる素質はあった馬だよ。それも、ひとつだけでなく、いくつも」

メジロを代表する名門アマゾンウォリアー牝系の出。なにより初の牝馬三冠馬となったメジロラモーヌの弟でもあります。
そして、雄大な馬体からダイナミックに首を使っての迫力ある走り。あまりの力強さに「重戦車」と表現する人もいました。
その血統と姿を見れば、誰もが能力の高さを疑いませんでした。
ただ、生まれたときから体質の弱さがネックでした。
それは、父アスワンが両前脚の内向により脚部不安に悩まされていたのも理由のひとつかもしれません。
また、一方が死産だったからとはいえ、胎内では双子だったからかもしれません。サラブレッドの双子は胎内で成長しにくいなどの理由で虚弱な馬となりやすくなってしまうのです。
その体質の弱さのため、満足に調教できず、デビューは4歳(現在の表記では3歳)の3月と、クラシックシーズンがかなり進んでしまってから。
にもかかわらず、能力の高さでデビューからわずか3か月後の東京優駿に出走するのです。東京優駿は惜しくもサクラチヨノオーに差し返されての2着。デビューから3ヶ月の馬が東京優駿という大舞台であわやというレースを見せたのは快挙と言っていいでしょう。
しかし、東京優駿後骨折が判明し、次走は1年後のメイステークス。そこを勝って、高松宮杯では安田記念バンブーメモリー相手にレコードタイムで2馬身半の差をつける快勝。
やはりメジロアルダンは強い。
そして、今でも名勝負と言われる1989年の毎日王冠へと駒を進めます。
ライバルは休み明けのオールカマーをレコードで勝った芦毛の怪物・オグリキャップと、天皇賞(春)宝塚記念を勝った「野武士」イナリワンなど。地方競馬からやってきたスターホースに、未知の魅力を持ったメジロの良血メジロアルダンが挑む構図は当時わくわくするものでした。
メジロアルダンの能力を試すためにオグリキャップイナリワンとの脚比べをしようとわざと追い出しを我慢した岡部騎手。そのメジロアルダンを外から一気にかわしたオグリキャップイナリワンの叩き合い。3頭並んで2頭になって、結果はハナ差でオグリキャップの勝利。今後のG1レースはどれだけ凄いレースになるんだろう。そんな予感を抱かせるには十分の名勝負でした。
毎日王冠で負けてしまったメジロアルダンは、天皇賞(秋)スーパークリークオグリキャップからクビ差、クビ差の3着。
さあこれから、というときに、今度は屈腱炎でまた長期休養に入ってしまいます。
復帰は約一年後のオールカマー
オールカマーこそ4着に敗れますが、次走天皇賞(秋)では2着。ヤエノムテキに屈しましたが、オグリキャップには先着する激走でした。
しかし、有馬記念は10着、日経新春杯は4着で、また屈腱炎が発症。この敗因には右回りということもありますが、脚部不安もあったと思います。

約10か月後の11月に復帰しますが、そこにはかつての迫力ある馬体をしたメジロアルダンはいませんでした。結果的に富士ステークスは6着、ジャパンカップは14着と大敗。これを最後に引退します。

2着に敗れた東京優駿はレース中に骨折していたという話もあります。
現役生活で合わせて約3年にも及ぶ長期休養があるうえに、もともとの体質の弱さもあって満足に調教できなかったところもあります。
もし脚部不安がなければ、万全の出来で走ることが出来たなら、オグリキャップスーパークリークイナリワンヤエノムテキなどとどんな名勝負を繰り広げたであろうか。G1をいくつ勝てただろうか。そう思わせるには十分の能力を持った馬であり、ロマンあふれる馬でした。

 

引退したメジロアルダンは良血を買われて種牡馬になりますが、日本ではあまり産駒が走らず2001年に中国へ輸出されます。
そして、中国に輸出されてわずか1年の2002年に種付け中に死亡。
異国の地でわずか2世代の中からメジロアルダンは一頭の名馬を誕生させます。
それがWu Di(无敌)という馬。中国で27勝、中国のグランプリレースを3連覇、1400m~8000m(!)のレースで勝利するという驚異的な成績を残した名馬です。
Wu Diは2015年に中国の種牡馬リーディングに輝くなど種牡馬としても活躍。
日本で栄誉を極めたノーザンテーストですが、その直系は絶えてしまいました。しかし、中国でメジロアルダンを経由してノーザンテーストの直系は残っています。
もしWu Diの子や孫が日本にやってきたら、種牡馬としてやってきたら、日本競馬史に残るノーザンテーストの直系が復活することになります。
現状は中国から日本にサラブレッドが輸入された例が無く、国家間の取り決めで難しい状況ですが、実現したら奇跡のような話になります。
メジロアルダンの血には、そんなロマンもあふれているのです。

 

本当に魅力的な馬だったメジロアルダン
今回メジロアルダンのカードが出たことで、実物のメジロアルダンのファンも増えてもらえたら幸いです。

ライアンなどについてのお話、といっても現役のライアンの方ですが。しかも、馬主が牧場を持つ流れになってきているというお話。

昨日2月6日は大川慶次郎氏の誕生日でした。
亡くなってもう20年以上経っていますし、最近競馬を始めた方は知らないかもしれません。
通算4回1日の全レースを当てるパーフェクト予想を達成し、「競馬の神様」と呼ばれた予想家でした。

その経歴以上に有名となってしまったのが、伝説のレース・オグリキャップ復活の有馬記念での「ライアン!!」の声。解説者でレース中に叫ぶ、しかもアイドルホース・オグリキャップが復活の勝利をあげようとしているときにということで、今でも話題に上ることがあります。

そういうわけでライアンを思い出したので、ライアン(といっても大川さんが叫んだメジロライアンではなく現役のライアンの方ですけど)などについて、以前から書こうと思っていたことをブログにしようと思います。

 

今年の南関東競馬クラシック戦線は島川隆哉オーナーの馬が頑張っています。
平和賞のライアン。ハイセイコー記念はノブレスノア、ミゲル、カイルで1・2・3フィニッシュ。年が明けてのニューイヤーカップでもミゲルが勝利。
以前は島川さんと言ったらセレクトセールで高額馬を買って、というイメージがありましたが、最近は牧場での自家生産に舵をきっております。
ノブレスノア、ミゲル、カイルはいずれも母も島川さん所有馬。そして、社台が導入した良血を祖にしております。
ノブレスノアはエアグルーヴに肉薄したシングライクトークなどを輩出したダイナフリート系。カイルは桜花賞オグリローマンの2着に入ったツィンクルブライド。そしてミゲルはアンバーシャダイサクラバクシンオーなどを輩出したクリアアンバー系です。
こう考えると、走る牝系を大事にして購入していたのが分かります。
そして、ノブレスノアとカイルは父も島川さんが所有していた馬。それを自分の牧場で生産するのですから、コスト自体はあまりかからなくなります。
もちろん、牧場の維持費はかかりますし、良血の繁殖を揃えるのはコストがかかります。
ただ、馬主の中では生産に切り替える人も現れているのが現状であり、今後もその流れは続くと思います。

ライアンに関しては、母ライアンズチャームは海外から購入した馬。ペルーのG1パンプローナ大賞を連覇し、ヌーヴォレコルトが出走したBCフィリー&メアターフでも走った(6着)名牝である。
Storm Catが入っていることからディープインパクトを付けて生まれたのがライアン。
その後はライアンズチャームに、これまた島川さんが所有していたイタリアダービーカタールダービーなどを勝ったマクマホンを付けていて、なかなか意欲的なことをしております。

良血馬を敢えて地方デビューさせる、エスティファームの良血牝馬に軒並みマクマホンを種付けするなど、島川さんはかなり実験的なことをしております。
これは、自家生産で費用がかからないからこそできる方法ではあるかもしれません。うまく運用出来る保証もありません。
それでも、セレクトセールで使っていたお金を牧場経営に変えてみるというのは、馬主としてひとつの手段かもしれません。

 

さて、そんなライアンですが、血統的に芝でも合うかもしれないということで、JRAに挑戦なんて話もありました。
ただ、話にあったジュニアカップには出走せず。
どうするのかな、と思っていたら、2月10日の雲取賞に出走することになりました。
鞍上は的場文男騎手。ひょっとしたら、的場文男騎手悲願の東京ダービー制覇達成のパートナーになるかもしれません。
そのときは、最後の直線で大川慶次郎氏ばりに「ライアン!!」と叫ぶ人が現れそうですね。

冬に咲き誇ったライラックのブーケ

デビュー前のライラックの追い切りはよく覚えている。
軽く走っているように見えて、追い切りパートナーに大きく先着。軽やかにスピード感あふれる走りを見せ、大器の可能性を感じたものである。
血統を見て納得した。自分が好きなスカーレットインクの牝系であったからだ。

スカーレットインク牝系。この牝系からはヴァーミリアンダイワメジャーダイワスカーレットなど数多くの名馬が生まれている。
以前もブログに書いたが、社台グループがアメリカでスカーレットインクを購入したのは、スピード能力の高いYour Host(Your Hostess)の血を欲したから。これだけ活躍馬を輩出できたのも、そのスピード能力を伝えることが出来たからといえる。

フェアリーステークスライラックはスタートで遅れるも、道中エンジンがかかるとスーッと上がっていって、直線大外から突き抜けて勝った。やはりスピード能力の高さを受け継いだのだろう。

ライラックの花の色は紫。スカーレットは赤であるが、ライラックの曾祖母はスカーレットブルー。赤と青を混ぜたら紫になる。
ライラックの母はヴィーヴァブーケ。これはスカーレットインク牝系で活躍したスカーレットブーケを思い出させる。
そして、ライラックの父はオルフェーヴルオルフェーヴルの代表産駒といえばラッキーライラックだ。
紫の花、そしてオルフェーヴルの仔だからライラック
ラッキーがなくても、ライラックはブーケ一杯に咲き誇る。

壮大なる楽劇を奏でたる名馬、逝く

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「福永家にとって悲願でしたから」
福永祐一日本ダービーを始めて勝った時のコメントだ。
天才と呼ばれながら、怪我により若くして騎手人生を絶たれてしまった父福永洋一。その息子として、18回ダービーに挑戦して有力馬に乗りながらも勝てなかった福永祐一
ダービーに対する思いが強いからこそ、このコメントの重みを感じた。
そして、やはりダービーを勝つのは競馬界にとって一番の名誉なんだな、と思ったものである。

この時、福永が乗ってダービーを勝ったのが、ワグネリアンだった。
外枠だしどうなんだろう、という戦前の評価を覆しての勝利。その騎乗は、福永がこれまでダービーで勝てなかった馬たちの教訓と思いが詰まっていたかのように思えた。
今までの馬たちの想いを乗せて、ワグネリアンが「ダービーはこうやって勝つんだよ」と教えていたかのようにも見えた。

 

ワグネリアンでダービーを勝った後、福永は3年でダービーを2度制覇。
コントレイルのダービーは無敗の2冠がかかっていたのにマイラプソディの捲りにも対応して落ち着いて乗ることが出来たのも、ワグネリアンでの勝利があったからだろう。
シャフリヤールで最後に皐月賞馬エフフォーリアを差すことが出来たのも、ワグネリアンでダービーを勝ったからであろう。
ワグネリアンのダービーは、間違いなく今後の日本競馬界を変えるくらいの歴史的レースだった。

 

ヘンリーバローズとの伝説に残る新馬戦。
日本競馬史を変えるダービーでの勝利。
それを思うと、その後の成績はお世辞にもいいとは言えない。
そして、長く現役を続けざるを得なくなった上での今回の死。
栄光のダービー馬がなぜ、と考える人も多いだろう。

ただ、同時に思う。
ワグネリアンは、福永がダービーを勝つために遣わされた馬だったのだと。
福永家の歴史を、日本の競馬界のこれからを、創造していくための馬だったのだと。

ワグネリアンという名は、楽劇王と呼ばれた芸術家ワーグナーを心酔する人々の呼称からとられている。
ワグネリアンが奏でた競走馬生活は、ワーグナーの楽曲のように、日本競馬界に壮大な物語を遺した。
出来れば、母の名のように、もう一度アンコールを聞きたかったが。

 

お悔やみを申し上げます。

恋は盲目な状態からアカイイトで結ばれて幸になった話 ~エリザベス女王杯~

「恋は盲目」とヴェニスの商人のセリフにあるように、今も昔もカップルの多くは好きになってしまったら周りが見えなくなってしまう。
あなたに夢中。欠点だって長所に見えてしまう。あばたもえくぼだし、ダメなところが可愛く思えてしまうのである。

最たる例、と言ったら怒られるかもしれない。ただ、母親の金銭問題等スキャンダルがあった小室圭さんと眞子さんの夫妻に対して「恋は盲目」という言葉が浴びせられることもあったのは事実だ。
それでも二人は愛を貫き、成婚。眞子さんは皇室を出て、アメリカに拠点を移して二人で生活することになった。
渡米して笑顔を見せた眞子さんを見たら、お金の問題等あるにせよ、二人の恋愛事情や生活について、もう追求する必要は無いように思えた。少なくとも二人の間では幸せな生活であるのだから。

 

日本が皇室なら、英国は王室・エリザベス女王
11月14日、阪神競馬場エリザベス女王杯が行われた。
勝ったのはアカイイト。10番人気という人気薄での勝利だった。
人気薄であったため、この勝利はオカルト馬券・サイン馬券という声があがっている。すなわち、小室圭・眞子夫妻が愛を貫いて渡米した日であったからアカイイトが勝ったというのだ。

オカルト馬券については他にもあるようで、アカイイトが勝ったから2着に赤い帽子3枠のステラリアがきて、3着にカーネーション(赤)という意味のクラヴェルがきたというのもあった。
それならなんでアカイトリノムスメではないんだとか、3枠のランブリングアレーでもいいではないかとか、ツッコミどころはいろいろあるが、オカルト馬券やサイン馬券は決着して始めた気がつくようなものなので、しょうがない。特にオカルトは「隠されたもの」が語源であるから、レース前に気がついてしまったらオカルトではなくなる。まあ、言い訳のようなものであるが。
それに、オカルト馬券やサイン馬券といったものは、見つけたからといって決まるわけではない。
例えば、13日にオースミ「マコ」の仔で「ナリタ」イチモンジという馬が出走した。そのため、眞子さんが成田空港から渡米するのでサイン馬券ではないかと一部で話題になった。
しかし、結果は5着。そうそう都合よく決まるものではないのだ。

なお、アカイイトはオカルト馬券・サイン馬券界隈ではちょっと有名な馬で、星野源さんと新垣結衣さんが結婚を発表した週に激走したという過去も持っている。その時の枠は、赤い帽子の3枠であった。
ちなみに、新垣結衣さんは「赤い糸」という曲を出したこともある。そう書くと、よりサイン馬券っぽくなるから不思議だ。

 

ただ、こうもサイン馬券だオカルト馬券だと書かれると、アカイイトが可哀想になってくる。
調教での動きは良かったし、2200mでの連対経験もある。阪神コースで勝ったこともある。
それに、宝塚記念もそうであるように、馬場が痛んできたときの阪神芝2200mは外枠が有利になるのだから。

 

そんなアカイイトの血統面も見てみよう。
父はキズナディープインパクト×母父Storm Catというニックス配合の代表例だ。
だから、キズナ産駒はニックスの要素となるものを受け継いでいる配合をされた馬が走ると言われている。つまり、Storm Catを構成する血統のニアリークロスだ。
例えばStorm BirdNijinskyとか、SecretariatNasrullahPrincequilloとか、Eight Thirty≒War Relicとかの血を持った馬との配合だ。
特に有名なのがNijinskyで、ディープボンドやクリスタルブラック、ファインルージュなどがいる。そして、アカイイトもまた、母方にNijinskyを持っているのだ。

Nijinskyが出たのなら、アカイイトの母父シンボリクリスエスキズナについても語らないといけない。
シンボリクリスエスNijinskyキズナのライバルであったエピファネイアを構成する血である。
となると、アカイイトキズナとそのライバルエピファネイアを混ぜ合わせたかのような血統構成になる。
ライバルの力を借りて強くなる。少年漫画ならとても熱い話だ。
競馬界にはそんなロマンが現実としてある。

と、ここまで血統面について書いてきたが、あえて書かなかったことがある。それは、牝系についてだ。
初めにアカイイトの5代血統表を見たとき、その牝系図から活躍馬を見つけることが出来なかった。だから、牝系からは書くことがないかな、と思っていた。
それでも一応辿ってみるかと遡っていくと、牝系図に一頭の名前が現れた。Tom Foolである。アカイイトTom Foolの母Gagaの牝系だったのだ。
Tom Foolアメリカで30戦21勝という驚異的な成績を残した名馬。種牡馬としてもBuckpasserなどを出し、成功した。
先ほどキズナ産駒はStorm Catを構成する血統のニアリークロスを持った馬が走りやすいと書いた。実は母方にTom Foolの血を持った馬も、その条件に当てはまるのだ。
そもそもディープインパクトStorm Catがニックスとなる理由の一つに、ディープインパクトに入っているAtticaとStorm Catに入っているFirst Roseのニアリークロス関係がある。そして、Tom Foolは特にFirst Roseと血統構成が似ており(Menowが共通、母父Bull DogとSir Gallahadはきょうだいの関係)、Atticaともニアリークロスが成立する関係にあるのだ。
アカイイトの母父であるシンボリクリスエスTom Foolの血を持っている。
そして、当たり前だがアカイイトボトムラインである牝系は、Tom Foolの母Gagaから繋がっているのだから、Tom Foolの血と強くかかわりがある。
つまり、ニックスの要素と考えられているものが、牝系から父親までしっかりと重なり続けているのである。

 

それにしても、競走馬としても種牡馬としても優秀なTom Foolなのに、馬名を直訳すると「馬鹿者」となるのは、馬にとって可哀想な気もする。
なんでこんな酷い名前がつかられたかというと、母Gagaアメリカのスラングで「頭がおかしくなっている」といった意味であるからだと言われている。
ただ、同時にGagaには「(頭がおかしくなるくらい)夢中になる」といった意味合いもあるらしい。
そうすると、恋は盲目、恋愛であなたに夢中となってしまう状態も「Gaga」と言えるのかもしれない。
そんな意味を持つGagaの牝系から、アカイイトが生まれ、G1を制した。そのとき乗っていた騎手が幸というのも、夢中になって恋をして赤い糸で結ばれて幸せな結末を迎えたという物語が描かれたかのようで、出来すぎである。
まあ、赤い糸が運命であるならば、出来すぎた物語になるのも当然ではあるが。

素質開花で母娘制覇 ~ロジータ記念~

応援していた馬の仔がデビューすると、嬉しくなる。そういう時に、競馬ってやはりブラッドスポーツなんだな、と感じる。

牡馬の場合、種牡馬になるのは難しい。ただ、種牡馬になれば、年に数頭、多ければ100頭以上の仔を残すことができる。もちろん、生存競争は激しいが。
対し、牝馬は年に1頭しか残せない(双子が生まれる場合もたまにあるが、かなりの例外事例)。そのため、牝系を遺すというのは意外に大変なことなのだ。

 

イカヨソウという牝馬がいた。
母がマチカネヤマザクラからサクラにまつわる名前が付けられた同馬は、桜花賞こそ敗れたものの、道営・南関東で重賞6勝と、見事に咲き誇る活躍を見せた。
桜色のメンコも鮮やかで、名前とともにファンも多い馬であった。

その初仔が、カイカセンゲン。
大井でデビューし、連勝。母同様の活躍を、母が果たせなかった桜花賞制覇を、と期待された。
ただ、その後は気性面の問題もあって、レースに集中できないケースが多くみられた。
能力はあるはずなのに。もどかしい日々が続いた。
それでも、年明けの東京プリンセス賞で5着。夏を越してルドベキア特別で2着。徐々に気性面も改善されてきた。
そして迎えたロジータ記念パドックでの歩みは堂々としたもので、馬体もマイナス10キロとは思えないほど張りのあるものだった。
スタートこそ遅れたものの、道中早めに上がり、直線で力強くかわしての勝利。期待された馬が見事に開花した瞬間だった。
まさに、名前のとおりのカイカセンゲン。
そして、母カイカヨソウもロジータ記念を勝っており、この勝利は母娘制覇ともなった。

イカヨソウの仔は日曜日にカイカノキセキが福島2歳Sに出走する。
レコード勝ちでデビューし、函館2歳Sでも2着だった実績を考えれば、ここは必勝態勢といえる。
こちらも母のような名牝となる可能性は十分。
桜花賞で咲き誇る開花の軌跡を、奇跡を見たい気もする。

話をロジータ記念に戻そう。
ご存じロジータ川崎競馬が生んだ名牝。繁殖としても仔としてカネツフルーヴ、孫としてレギュラーメンバーなどを出した優れた馬であった。
ロジータ記念を勝ったカイカヨソウとカイカセンゲンの母娘も、ロジータのような名牝系となったもらいたい。
そして、カイカセンゲンには、同じ勝負服の世界女王に挑戦して勝つというところも見てみたい。