「My Old Kentucky Home」を歌って出走馬を迎え、勝者にはバラのレイを贈り称える。あらゆるスポーツでもっとも偉大な2分間。ケンタッキーダービーというのは、世界の競馬の中でもっとも勝ちたいと思われるレースの一つだ。
だからこそ、そこでの勝利は何よりの名誉となる。
今年のケンタッキーダービーは歴史に残る波乱の決着となった。
もちろん、日本で発売された馬券で3連単が1600万円馬券となったというのもある。
ただ、それ以上に波乱だったのが、20分以上にわたる審議の末、1位入線馬が降着となり、2着入線馬が繰り上がって優勝したことである。これは、145回行われた長い歴史のあるケンタッキーダービーで初めてのことだった(ダンサーズイメージが薬物で1着から失格になったことはあるが)。
レースは降りしきる雨の下、泥の馬場で行われた。スタートよく逃げたマキシマムセキュリティ。そのまま汚れず先頭でゴール板を駆け抜けた。無敗の5連勝。新しいスターの誕生に観客は沸いた。
しかし、異議申し立てがあり、審議に。結果的にマキシマムセキュリティが3、4コーナー中間で外にふくれ、ロングレンジトディの進路が狭くなり大きく後退。その加害馬としてマキシマムセキュリティがロングレンジトディの次の着順(17着)に降着することとなった。
この裁決にアメリカ全体で賛否両論が巻き起こっている。
降着処分が決まった瞬間、チャーチルダウンズ競馬場で怒号交じりの悲鳴が起きる映像も見た。トランプ大統領がTwitterで「ケンタッキーダービーの降着はおかしい」旨のツイートまでしている。
日本では一番人気、アメリカでも二番人気だったマキシマムセキュリティの降着。それも、アメリカ競馬でもっとも強いとされる逃げ切りで、1馬身4分の3の差をつけての入線なのだ。3、4コーナーでの進路妨害がなくても勝っていたのはマキシマムセキュリティであるし、ケンタッキーダービーという名誉あるレースの勝者にふさわしいのは一番強い競馬をしたマキシマムセキュリティだ。
そう思うのもわかる。
ただ、ロングレンジトディの進路が狭くなったのも事実で、実際ロングレンジトディはこの不利により先頭集団から一気に後方まで下がってしまっている。
失格・降着制度について以前の日本のようなカテゴリー2を採用しているアメリカの競馬なら、降着処分もやむを得ないのではないか。そういう見方もできる。
失格・降着制度がなければ「やったもの勝ち」となってしまい、公平で安全な競馬が保障されない以上、制度として必要なのは当然だ。
同時に、判断するのは人間である以上、絶対的な基準は作りにくい。作っても評価、認定する際に結論が変わることもある。
ケンタッキーダービーという大レースだからこそ結果を重視すべきというのもわかるし、厳格に判断すべきというのも理解できる。
多分正解はないのだろう。
ケンタッキーダービーが名誉あるレースだからこそ、結論を出すのはより難しくなる。
ただ、どういう結論になっても、後味が悪くなってしまうのは同じだ。
だから、せめて勝者は称えよう。
今回ならカントリーハウスとプラ騎手と、モット師を。何しろモット師は数々の大レースを勝ち競馬殿堂入りをしながら、これがケンタッキーダービーの初制覇なのだから。
ケンタッキーダービーの降着から5、6時間後、日本でも降着騒ぎが起こるが、それは次回のブログで。