オグリキャップをもう一度

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ヴァンセンヌを考える

高知優駿は地元生え抜きの意地を見せてハルノインパクトが優勝した。これで黒潮皐月賞に続いて二冠達成。
高知優駿には、大外枠から4着に粘った佐賀の二冠馬トゥルスウィーも参戦していた。
この二冠馬には共通点がある。2頭とも父がヴァンセンヌなのだ。

ヴァンセンヌ。父は言わずと知れたディープインパクト。母はスプリンターズSなどを勝ったフラワーパーク。自身の主な勝ち鞍は東京新聞杯
このように書くと、産駒は基本的に芝の短距離が適しているように思える。
それが、地方重賞とはいえダートの2000mの大きなレースを勝つというのは、意外だ。
もちろん、母方の血の影響もあるとは思う。
ただ、それだけではなぜヴァンセンヌの産駒が2頭も二冠を達成したか、説明しにくい。
なので、なぜヴァンセンヌの産駒で同じ年に2頭の二冠馬が誕生したか、考えてみることにした。

 

①遺伝子的見地
動物にはミオスタチン遺伝子という筋肉の増加を抑制する遺伝子がある。
サラブレッドの祖先は筋肉の増加を抑制しやすいミオスタチン遺伝子T型しかもっていなかったという(これは父方を辿っての研究であり、母方には筋肉の増加を抑制しないC型を持っていたという説もある)。このミオスタチン遺伝子T型というのは、筋肉の増加を抑制することから、無駄なエネルギーを使わなくなるので、持久力が高くなることにつながる。
対し、筋肉の増加を抑制しないC型というのがある(サラブレッドでミオスタチン遺伝子C型が検出されたのはニアークティックからというのが通説)。こちらは筋肉が増加しやすいことから、スピードに富むという特徴がある。
そして、遺伝子というのは対になっているため、TT型、CT型、CC型の3種が存在することになる。近年の研究ではざっくり言ってTT型が長距離馬、CT型が中距離馬、CC型が短距離馬になりやすいという結果が出ている。
ディープインパクトミオスタチン遺伝子は半ば公表されており、TT型であるとされている。つまり、長距離型だ。
ディープインパクトが長距離レースでそこまで強くないのは、非力であり別のスタミナを消費してしまうからというのと、その非力さを補うためにCC型の繁殖牝馬と種付けするから、というのが推論としてある。とはいえ、少なくとも産駒はCT型であり、中距離までで活躍した馬であっても仔にはT型が遺伝する可能性はある。
つまり、ヴァンセンヌもおそらくCT型であり、仔にT型が遺伝すればスタミナがある馬になりやすくなる。
なので、母方によってはパワーのある長距離馬が生まれるのである。
※あくまでこのような傾向があるという話であり、TT型が絶対短距離では勝てない、CC型が絶対に長距離では勝てないというわけではない。

 

②母方の話
ディープインパクト産駒で走った馬の血統を見ると、母の父がほとんどアルファベット表記orクロフネキングカメハメハであることに気づく。つまり、母の父は外国馬か、海外からの持ち込み血統であるということだ。
おそらく多くはCC型orCT型の繁殖牝馬であり、ディープインパクトに不足しているパワー的スピードを補うためにつけられたものばかりであろう。
そんな中、ヴァンセンヌの母の父はニホンピロウイナー。日本で生産され、安田記念などを勝ったスピード馬であった。
種牡馬としても活躍したが、産駒もフラワーパークやヤマニンゼファーなど短距離、長くて2000mまでという馬が多かった。
しかし、ニホンピロウイナーからは菊花賞3着となるメガスターダムも出ており、単純な短距離馬しか出さない種牡馬ではなかった。
おそらくその一因となっているのは、ニホンピロウイナーの牝系にあろう。
フロリースカツプ。小岩井農場の基幹牝馬であり、コダマやスペシャルウィークウオッカなどクラシックホースを輩出している牝系だ。近年ではレイパパレがこの牝系の出であり、先日そのことをブログに書いた。

これだけクラシックを勝つ馬を出しているのだから、スタミナがある血も持っているのだろう。
母の父ニホンピロウイナーだからと言って、その産駒がすべて短距離馬になるわけではない。

 

以上のことを考えると、ヴァンセンヌからはイメージとは違ってスタミナがある産駒も出てくるということになる。
同じ年に2頭の二冠馬が生まれたのは奇跡に等しいが、種牡馬にはよく走る馬が多いヴィンテージイヤーみたいなものがある。タイミングがうまくはまったのだろう。
今後もヴァンセンヌの産駒が走るかはわからない。おそらく繁殖牝馬の質によるだろう。
ただ、走る可能性はないとはいえない。
ディープインパクト×母方に日本古来の血が入っているという種牡馬は珍しいので、地道に実績をあげて、頑張ってもらいたい。